表象文化論学会の学会誌『表象』11号に書評を寄稿しました。竹峰義和氏の著書『〈救済〉のメーディウム––ベンヤミン、アドルノ、クルーゲ』(東京大学出版会)の内容を紹介しつつ、若干のコメントを加えています。
本書はフランクフルト学派の展開を思想家の系譜(ベンヤミン、アドルノ、ホルクハイマー、マルクーゼ、ハバーマス、ホネット等)に基づいて概観する従来のアプローチとは明確に一線を画し、ベンヤミン、アドルノ、クルーゲが形作る ––– 思想史と映画史の境界を横断する ––– 布置のもとで、フランクフルト学派の思考のアクチュアリティを探求しています。なぜひとはアドルノの文化産業論に今なおムキになって反論せずにはいられないのかという問題をアドルノのテクストに仕組まれたレトリカルな戦略の分析を通して考察する一章も痛快ですが、個人的には、ベンヤミンの複製技術論文の緻密な読解に大いに刺激を受けました。
また現在も精力的に活動を継続している映画作家アレクサンダー・クルーゲの広範な仕事についての議論を日本語環境に本格的に導入した点も、本書の功績に挙げられるでしょう。同様に重要かつユニークなドイツの映画作家ハルーン・ファロッキの仕事は、日本でもそこそこ紹介されていますが、クルーゲの多面的な活動の全貌はいまだ未知の大陸にとどまっています。この本をきっかけにして、日本でもクルーゲの仕事への関心が高まり、作品を見ることのできる機会が増えていくと良いと思います。
なお今号の『表象』から、私も編集委員の一人として編集作業に関わっています。特集から投稿論文、書評まで、非常に中身の濃い充実した内容になっていますので、お手にとっていただけると幸いです。