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忘我・交通・形象
ヴァイマル共和国時代のドイツにおける群集論の展開

この博士論文では、ヴァイマル共和国時代の群集(Masse)をめぐる言説の展開を、文学、思想、社会学、精神分析学などの言説ジャンルの境界を横断する視点から考察しています。このような領域横断的アプローチを採用することで、本論文は、ヴァイマル共和国時代の群集をめぐる膨大かつ多様な言説の根底にある共通の理論的枠組み(パラダイム)の存在を指摘し、そのパラダイムが共和国の社会的状況の変化とも連動するかたちで二度にわたって大きく変容したことを明らかにします。加えてヴァイマル共和国時代についての文学研究として、本論文は、当時群集という主題を媒介として生じた文学作品と同時代の理論的言説とのあいだの多様かつ密接な諸連関を照らし出しています。それによって、これまでの文学作品に限定された先行研究においては見逃されがちであったヴァイマル共和国時代の文学的実践の力学が明示されます。


第1章   序論

1.1. 群衆/群集/大衆
1.1. 群集概念:語源的含意と近代以前の意味内容
1.2. 群集概念:近代的意味内容
1.3. 群集の不透明性:文化闘争のアリーナとしての群集論
1.4. ヴァイマル共和国の時代区分と群集論の展開
1.5. 混合空間としてのヴァイマル共和国
1.6. 本論の構成について

第2章   フランス群集心理学とドイツ語圏におけるその受容

2.1.   「古典的」群集心理学:ル・ボンとタルド
2.2.   ヴァイマル共和国以前の群集論
2.2.1. ジンメル:群集のラディカリズム 
2.2.2. カウツキー:出来事としての群集
2.2.3. シュペングラー:群集(大衆)と文明
2.3.   ドイツ革命後の群集論と「古典的」群集心理学〔カネッティ、ティリヒ、テオドール・ガイガー〕
2.4.   革命的群集心理学とフロイト〔パウル・フェーダーン、フロイト〕
2.5.   ファシズム的支配の心理学:「マリオと魔術師」〔トーマス・マン〕
2.5.1. 海岸にて:大衆社会のなかの不気味なもの
2.5.2. 劇場にて:支配モデルとしての催眠術

第3章   革命的・忘我的群集と群集論

3.1.   革命的群集のヴィジョン:「10月5日」〔ハイム〕
3.2.   革命体験と群集論〔カネッティ〕
3.3.   革命的群集と忘我〔ティリヒ、ガイガー、カイザー、トラー〕
3.4.   忘我的指導者と群集の誘惑者〔ティリヒ、ガイガー、カイザー、トラー〕
3.5.   群集と共同体への憧憬〔ティリヒ、ガイガー、カイザー、トラー〕
3.6.   群集と不気味なもの〔フロイト、ガイガー〕
3.7.   群集をめぐる言説の忘我的力学:ヘルマン・ブロッホ
3.7.1. 混合と分離:「街路」
3.7.2. 群集体験と言説の生成:『夢遊の人々』(第一部)

第4章   合理的・機能的大衆と大衆論

4.1.   大都市/匿名性/大衆:『マルテの手記』〔リルケ〕
4.2.   群集論から大衆論へ:群集をめぐる言説の変容〔リルケ、デープリーン、プレスナー〕
4.3.   〈交通空間〉としての都市〔ヘルマン・ブロッホ〕
4.4.   大都市生活の文法〔ジンメル〕
4.5.   〈交通〉と合理的・機能的大衆
4.5.1. 公共空間と大衆システム〔プレスナー〕
4.5.2. 〈交通空間〉と政治的群集の行方〔イルムガルト・コイン〕
4.5.3. 合理的・機能的大衆の現存在分析〔ハイデガー、ヤスパース〕
4.5.4. 大衆文化分析と〈交通のシステム〉〔クラカウアー〕
4.6.   合理的・機能的大衆と都市の表象:『べルリン・アレクサンダー広場』〔デーブリーン〕
4.6.1. 〈交通空間〉の詩学
4.6.2. 大衆の(不)可視性
4.6.3. 群集の回帰

第5章   『労働者』と群集論の解体的再編成〔エルンスト・ユンガー〕

5.1.   メディア的動員としての書物
5.2.   労働者の形象と立体視の詩学
5.3.   〈交通〉の再編成
5.4.   個人および群集(大衆)の解体とタイプの出現
5.4.1. 個人と群集(大衆)の運命
5.4.2. タイプの概念と群集論の理論的布置の解体
5.5.   技術の再定義と〈労働世界〉のヴィジョン
5.5.1. 技術/タイプ/権力
5.5.2. 有機的構成と〈労働世界〉

第6章   結論

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